エッセイ
  (更新日:毎月7日)

Vol.05
「似て非なるもの」

Vol.05 「似て非なるもの」

「あのときは楽しかったなぁ」と愉快な出来事を思い出すことと、「あのころが一番よかったなぁ」と過ぎ去った時間を懐かしむことは、似ているようでちょっと違います。

 もしあなたが、「あのころが一番よかったなぁ」と思うことが多くなっていると感じたら、それは「今をもっと大切に生きて!」という黄色信号かもしれませんよ。

 愉快な出来事≠「あのときは楽しかった」と思い出すのは、だれもが日常的にしていることです。愉快な記憶を再現すれば、そのときの楽しい気分がよみがえって心が華やぎます。これは大きなメリットです。

 たとえば、恋をするとキレイになると言われるのは……楽しかったデートを思い出してニヤニヤ、ルンルンして心が潤うから。また、自分がかつて熱中した歌の数々を聴くと元気が出るのは……そのときの自分にタイムスリップして心が若返るからです。

 では、「あのころが一番よかった」と過ぎ去った時間≠懐かしむことは、どこが問題なのでしょうか。単純に当時を懐かしがるだけならば問題ないのですが、「あのころが一番よかった」と感じるとき、その背後には「あのころの自分が最高だった。それに比べて今は全然ダメだ」という気持ちが隠れています。

 つまり、過去と現在を比較して、過去の自分を現在の自分よりも上位に持っていっていることが問題なんですね。すると、今の自分を認められなくなってスランプ≠ノ陥り、今という時間も、未知の自分の力も、十二分に生かせなくなってしまいます。

 このことは、仕事や趣味、企画したことや創作したものなど、なんにでも当てはまります。そうなるわけは、以前にうまくいって評価された記憶に執着するため。そして、執着すればするほど、今の自分にプレッシャーをかけるためなのです。

 そのプレッシャーをバネにして動けるうちはいいのですが、しだいに心の自由を失い、本当はもっとすばらしいアイデアを思いつくはずなのに、自分でインスピレーションを受け取れない状態に追い込んでいきます。これはなんとかしなければいけませんよね。 そんなときは「評価された過去は手放すためにある」と考えてみませんか。過去の評価は食べ終えたご馳走。すでにあなたの血と肉になっているのだから、よかったことこそ執着しないで手放しましょう。そうすれば心は自由を得ます。

 もし「あのころが一番よかったな」という思いが脳裏をかすめたら、こう言い換えてみてください。「あのころは今の次によかったな」とか「過去の自分を満足げに振り返ることができるのは、なんて幸せだ」って笑いましょう。

 人生は、同じ栄光をくり返そうとしなくていいのです。たえず移り変わっていくのは、物事だけではありません。あなた自身がそうなんですよ。だから、今ここにいる自分がベストを尽くせば、きっと今しか味わえない楽しさに出会えると思います。そうやって、いつでも「今の自分が最高!」と思える生き方を目指しましょう。

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Last Updated: 2015/05/07