エッセイ
  (更新日:毎月7日)

Vol.09
プラス思考の落とし穴

Vol.09 プラス思考の落とし穴

 自分の心の底に横たわっている"見たくないもの"を避けようとする気持ち、あなたにはありませんか? それは何かに対する恐れかもしれないし、過去の痛みかもしれないし、強烈なエゴかもしれません。

 だれだってそんなイヤな感情を呼び起こしたくはありませんよね。それで知らないうちに目を反らし、ときには「ないこと」にして前に進もうとします。そして、それを「プラス思考!」と思ってしまうんですね。ここに"プラス思考の落とし穴"があるのです。

「会社を辞めたい」という相談を持ちかけた人を例に見ていきましょう。彼女は「会社に魅力を感じない」「尊敬できる上司がいない」「ここにいても力を発揮できない」と頭で考えた辞めたい理由を述べました。

 私は、もし彼女がこのまま辞めれば、次の会社でもまた同じような事態が起こり易くなると思いました。なぜなら、会社を辞めたくなった本当の理由、つまり『本心が抱える問題』とまだ向き合っていないと感じたからです。

 人生の壁を乗り越えるときには、具体的な身の振り方を決める前に、そこに横たわる自分の感情、(たとえそれがどんなに見たくないものであっても)それと決着をつけないことには本当の意味で前には進めません。

 カウンセラーがよく「自分と向き合いましょう」というのは、本心に耳を傾けてイヤな感情をきちんと受け止めることが、自分自身に対する理解を深め、結果的に立ち直る近道になることを知っているからなんですね。

 その女性は、勉強してプラス思考を身につけ、「クヨクヨしても仕方がない」と割り切る力を持っていました。けれど、いつのまにか「本心には触れないで目をつむる」という手っ取り早い方法を覚えてしまったようでした。

 そこで改めて"やっかいな本心"に向き合ってもらうと、「自分を認めてくれない上司にハラが立つ」「責任ある仕事を任せてもらえる同僚が妬ましい」「自分が信用されないのが悲しい」といったさまざまな感情が飛び出してきました。

 私たちは生身の人間です。怒ったり悲しんだり妬んだりする感情があるのは当たり前なのです。それらをシカトして前に進むことがプラス思考ではありません。理性は、イヤな感情を押さえ込むためではなく、その感情が生じたわけを理解するために使いましょう。それこそが自愛なのです。

 彼女には「がんばっても報われなくてつらい」という胸の痛みを素直に受け止め、その自分を温かく応援するように伝えました。その後、彼女が前に進むために自ら出した結論は、「一度、上司に本音を打ち明けてみようと思います」でした。

 理性的な人ほど「常にプラス思考でなくてはいけない」と考えて落とし穴にはまり、気持ちがついてこなくてしんどくなってしまうことがあるのです。プラス思考は大切ですが、もっと大切なのは"バランス"です。マイナスの感情は一生付き合っていく自分の一部と考え、うまくバランスを取って「本心から前向きでいられるように」持っていきましょう。

エッセイバックナンバー


| ホーム | プロフィール | エッセイ | ねっとカウンセリング | みんなの広場 |
| Booksコーナー | 講演依頼 | お知らせコーナー | ボイス・レター |

Last Updated: 2013/09/07