エッセイ
  (更新日:毎月7日)

Vol.07
「ひとつの幸せ」

Vol.07 「ひとつの幸せ」

 親しい間柄で遠慮がないからケンカする。でもケンカしたあとは、前よりいっそう仲良くなる。というのなら問題ありませんが、ケンカするたびに心にヒビが入って距離ができていくようだったら、一度そのわけを考えてみましょう。

 あなたは、自分の親しい人、たとえばパートナー、恋人、友だちと言い争いになったとき、どんな気持ちで自己主張しますか? エスカレートしてくると、その発言はどうなりますか? ある女性は、「恋人に言い負かされると腹が立って、いつか思い知らせてやりたいという気になる」と打ち明けました。

 人間はケンカすると、「あなたは間違っている。私の言っていることが正しい」という気持ちに陥りやすいんですね。だから相手の話を聴くことがヘタになるんです。はなから「それは間違った主張」と決めつけ、はね返そうとするためです。

 最悪の場合は、行き違っている内容はそっちのけで人格を罵倒しはじめます。「そういうあなたってサイテー!」とか、「ホントうるさいやつだなぁ」といった調子で……。

 こんなふうにはね返されて悲しい思いを味わった、という経験はありませんか。私たちは言い争ったときに浴びた暴言を、あとから何度も思い出しては何度も傷つきます。暴言を耳にしたのは一回だけなのに、記憶は仲直りしたあとも消えないのです。

 つまり、言い負かされたほうは、一度でも暴言があれば忘れないし、正しい主張をしている気になっているほうは、たいていそのことに気がつかない。中には、言い争った弾みで吐いた言葉なんていちいち覚えてないと言う人さえいます。

 でも、そういったことの繰り返しが心を疲れさせ、「いつか思い知らせてやりたい」という復讐心にまで発展してしまうこともあるのです。

 人と意見が対立することは避けられないにしても、恋人にムカつくことは避けられないにしても、傷つけ合う必要はありません。暴言は吐かない、なるべく人にやさしい人生を送るほうがいいに違いありません。

 そこで、言い争いになっても「これだけは守る」という自分のルールを決めておくことをお勧めします。たとえば、「人格には言及しない」とか「まず相手の話を聴く」とか「何はともあれ深呼吸する」など。

 問題が生じたとき、どっちが正しいかと言えば、心理の上ではどっちも正しいのです。だから、お互いの心の背景を理解するために話し合う。いえ、耳を傾け合うのです。

 どっちが正しいかを求め過ぎれば、幸せが逃げていきます。大事なことは「歩み寄る」ことで、相手を言い負かすことではありません。「怒りをやり過ごす」ことも、「自分の都合を見送る」ことも、大きなやさしさです。

 私は、夫とケンカするといつも思います。片方が幸せじゃなくなったら、もう片方も幸せではいられなくなる……ふたりはペアで"ひとつの幸せ"を分かち合っているんだなと。

 あなたもそのことを忘れないで、有益なケンカをして理解を深め合ってくださいね。

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Last Updated: 2009/07/07