最近、今を大切に生きようと思えば思うほど、"かつての自分を懐かしむこと"も必要だと感じています。
もちろん、「昔の自分を懐かしがっても仕方がない。一番大切なのは今ここにいる自分」という信念は同じですが、それゆえ、今の自分がかつての自分を振り返って"幸せの原点"を思い出すことも大切だと思うのです。
それは"幸福の閾値(いきち)"を下げるためです。閾値は、刺激を引き起こすのに必要な最小値。幸福の閾値といえば、興奮やトキメキなどの刺激によって幸せを実感する値のことです。
というのは、人間はいろいろな経験をすればするほど刺激に慣れて、もっと強い刺激がないと反応しなくなる、という習性があるからです。それは一面、悲しみや苦しみに対する心の強さをもたらすという利点もありますが、その裏で、昔は喜べたことが、もうその程度では喜びを感じないという現象を生み出します。
年齢を重ねることや成功体験によって、幸福の閾値が上がるのは自然のなりゆきだとしたら、それを意識的に下げること。かつての自分を思い出し、心をリセットして幸せを感知するセンサーを鈍らせないことも大事なのではないでしょうか。
最近のあなたが、小さな刺激ではもう喜べなくなっていたら、アルバムをめくって自分が歩んだこれまでの人生を振り返ってみましょう。単に昔を懐かしむのではなく、そこに埋もれている"幸せの原点"を見つけるために…。
あるいは、かつて通っていた学校や住んでいた家を訪ねて、そのころ抱いていた夢への新鮮な感情を思い起こしてみましょう。もう一度"初心"に立ち返るために…。
私は、つたない原稿を手に何度も出版社に足を運び、「自分の思いをどうしても本にして伝えたい。何としても物書きになる!」と歯を食いしばっていたころの自分を思い浮かべることがあります。
それは、ついつい原稿の締め切りに追われてため息をもらす自分に、現在の状況に感謝して全身全霊をかけて仕事に打ち込む情熱を呼び戻してくれます。
また、私がよく思い出すのは、人生に疲れ果て絶望の淵をさまよっていたころの自分です。死にたいとまで思いつめた気持ちを回想するとき、こうして自分が生かされていることの意味と、メッセージを発信し続けようと決めた初心がよみがえってきます。
あなたがかつての自分を懐かしむ目的は、ここまで無事に生きてきた自分のことを「お疲れさま」とねぎらい、同時に、多くの人々のお陰で今日まで生きてこられたことに、改めて「ありがとう」をいうためなんですね。
それによってあなたの幸福の閾値は下がり、心はきっとさわやかな幸福感に包まれるでしょう。