旅から戻ると、とんでもない体験ほどおもしろい話になるものですが、「そんなバカな…」という体験は、新しい気づきにあふれているのかもしれません。今回は、そんな私のエピソードです。
5月にイタリアを巡ってきました。旅の最後に、フランスに住む友人を訪ねようとミラノから列車でニースに向かい、降り立ったプラットホームでの出来事。
GパンにTシャツ姿の3人組(男2、女1)が近づいてきて、身分証明書を見せ「カスタマーだ。荷物を見せなさい」と英語でいいました。
フランス語の証明書がはたしてホンモノかどうかわからないし、3人はユニホームも着てないし、そこは誰でも入れるプラットホームの片隅。私は戸惑いながらも、仕方なくバッグを開けました。
「イタリアから来たのでチェックする」といって、若いカスタマーと称する男性が洗面道具の袋をホームに投げ捨てたのでムッとしました。「私は日本人ツーリストで、ニースの友人を訪ねてきた」といったけれど無視され、靴の入った袋も投げ捨てられました。
続いて小箱を取り出して開けると、デミタスカップを見た途端、私の鼻先にカップを突きつけ「ツーリストじゃない、仕事できたんだろう」と声を荒げたのです。
私はワケがわからず、「違う、これは自分の土産だ」と説明したものの、イタリアを旅してきて警戒心が強くなっていたこともあって、『言いがかりをつけて、事件に巻き込む気かもしれない』と怖くなりました。
そこで、バッグをかきまわす男性の手を制して、「あなたは本当にカスタマーですか?」と聞いたのです。
それが気にさわったようで、彼は「カスタマーだ!」とどなっていきなり私の腕をつかむと、なんと、手錠を取り出してはめようとしました。
私は「NO〜!」と叫んで必死にはばみながら、手首に押しつけられた手錠の感触に『ホンモノなの?!』それより『これは夢?それとも現実?』と意識が遠のきそうになりました。
そのときです。こっちに向かって歩いてくる友人の姿が目に入ったのは…。心配して探しにきてくれた友人は、私が3人を疑った理由と日本人が巻き込まれた事件のことを、フランス語で通訳してくれました。
すると女性カスタマーは、「あなたが疑うのは正しい。フランスでも駅を出たら気をつけなさい」と一言。手錠はもちろんホンモノで、彼らは"偽ブランド品ビジネス"の取り調べをしていたようです。フランスでは、カスタマーの権利は絶対だから抵抗してはいけないとのこと。
間一髪で逮捕劇を逃れたとはいっても、私は大ショック!もし私が最初から疑惑を持たなければ、あんなことにはならなかったかもしれないけど、「人生、いつどんなことで一変するかわからない」と痛感。あぁ、びっくりしたぁ〜!
無事、普段の生活に戻って、当たり前のことが変わらずにある幸福″をかみしめました。「旅の刺激」はかけがえのないもの。でも「平凡でつつがない日常」は、もっとかけがえのないありがたーいものですネ。