愛する家族が重い病気で苦しむ姿を見るのは、実につらいものです。そんなとき、「うまい言葉」をさがすことはないんですよ。あなたの口をついて出る言葉は、あなたの思いですが、それがお母さんにとって真に必要な言葉かどうかということです。
はじめに、お母さんに必要な言葉とあなたの感情は同じでないことを理解してください。あなたの中にある「どうして母がこんな目にあわなくちゃならないの!」といういきどおりや嘆き、「何が何でもがんばって治療を続けてもらいたい」というお母さんへの期待や願望は、あくまでもあなたの感情です。
これが、病人に対して「がんばって」という言葉が、お見舞いの言葉としてふさわしくないといわれるゆえんなのです。病人は病魔にむしばまれて生きているだけで、もうすでに充分がんばっているのですから。
あなたの感情を横に置いて、「お母さんが安らいで前を見て生きられるためには、どういう心境になればいいか」ということを考えましょう。
お母さんが「ガンだけど、不幸じゃない」という気持ちにならないと、絶望と不安から抜け出すのはむずかしいし、恐らく生きる希望も突き上げてこないと思います。
ということは、一日も早く「ガンの自分」を心から受け入れることが、お母さんにとっては重要で、それを助けるのがあなたの役目なのです。
まずは、あなた自身が「お母さんの病気は不幸」とか「もし治らなければ悲惨」という発想をやめること。ガンにおかされたお母さんを、自分の人生に喜んで受け入れることです。
これまでお母さんがあなたにしてくれたことを思い出して、そのお母さんが今生きていてくれることに心を向けましょう。そうすれば、自然に贈りたい言葉が浮かんでくると思います。それを伝えればいいんですね。
そして、貴重な時間を治療にまつわる会話で埋め尽くさないように、暖かい心と心の触れ合いの会話で満たしてください。あなたの心がけは、お母さんに大きな影響を及ぼすはずです。
今お母さんの心身に必要なものは、「わき起こる感謝」です。
家族への感謝がわいて、生かされていることを心底ありがたいと感じれば、自然に「与えられた命をできる限り大切に生きよう」という気持ちになります。
「自分は病気でもこんなにしあわせで、ありがたい」と思えば、気力がみなぎって自然治癒力が高まっていきます。
あなたが「お母さんは絶対に良くなる」と信じることはとても大切で価値がありますが、もしそれが恐怖の裏返しだとしたら、苦しみは減らないかもしれません。
私もあなたもお母さんも、いつかはこの肉体を離れます。あなたは、その事実から目をそらさないで親を見つめるという大きな試練を迎えているのです。
だからこそ、真剣に考えてください。自分の身に何が降りかかっても、悲嘆にくれて生きるより、その人生をありがたいと思えることがいかに大切か。安らかな心で寿命をまっとうすることが、人間としていかに大切かについて。