20代という若さで、人生の試練にぶち当たったようですね。涙も出ない、心の痛みも感じないという自分に戸惑う気持ちは、私も経験したのでよくわかります。でも、けして自暴自棄にならず、抜け出そうという意志を強く持てば必ず穏やかな心を取り戻せますよ。
最初に「涙も出ない、心の痛みも感じない」という状態について説明します。それは、心の安全装置が作動している状態。たとえば、電気製品にたくさんの電気が流れたとき、ヒューズが飛んで守ってくれるのと同じです。心にこれ以上悲しみがあふれると、心が壊れてしまうから、それを一時的に感じないようにして「感情に取り込まれてしまう」のを防いでいるのです。
今、あなたにもっとも必要なのは、そんな自分を「温かく」受け入れることです。この「温かく」がポイントですよ。一番つらいときに「どうして涙が出ないの?」「どうして痛みを感じないの?」と自分を責めて心を追い込んではいけません。
あなたを守ろうとして"雨宿り"の状態を作っている心に、「守ってくれて、ありがとう」と思ってみてください。自分が人生を否定したり、無闇に心配することに心を使わなければ、きっと少しずつ元気を回復していくから。
お父様の病気も、恋人の心変わりも、バンドメンバーの嫌がらせも、自ら選んだ出来事ではないから、いっそうショックを受けて「どうして私にばかり重なって起きたの?」という気持ちになっていると思います。けれど、これだけは覚えておいてください。
その人が乗り越えられないような試練が、その人の身に降りかかることはありません。大きな出来事が3つも重なったのは、あなたにはそれを乗り切るだけの力がある、そして眠っている力を目覚めさせるときがきたからなのです。
もしかすると、あなたの魂が「今のうちに自分をギリギリのところまで追い込んで、人間としてひと回り大きくなろう」と計画したことなのかもしれません。さあ、自分が持ち備えた力を信じて前に進みましょう。あなたがするべきことはふたつです。
ひとつは、「こんなことにならなければよかった……」という未練や後悔を捨てること。今は理解できなくても何か大きな意味がある体験に違いない、とハラをくくって目の前の現実を受け入れてください。
もうひとつは、「私はこんな目に遭わされている」という被害者意識から抜け出すこと。今は自分に同情することも、失望することもせず、たいへんな試練を乗り越えようとしている自分を誠心誠意、応援してください。
このふたつのことを、毎日、朝晩、自分に言い聞かせて心を強く持ちましょう。あせらなくていいから、心の持ち方を徐々に変えていけばいいんですよ。ひと回り成長して強くなるとは、現状にあらがう強さではなく、現状をしなやかにやり過ごせる強さを身につけることなのです。
自分にかける重要な言葉はまだあります。それは「ひとりで抱えこまなくていいよ」、そばにいるだれかに胸のうちを洗いざらいぶちまけてみませんか? それと「泣きたいだけ泣いていいよ」、ひとりの部屋で声が枯れるまで泣き叫んでみませんか?
それをするのはこれからです。自分がそうしたいと思ったときがそのときです。それをして心が崩れてだめになることはもうないから、安心して痛みを解き放ちましょう。