あなたは今、母親の愛情、8年間というとき、他人との信頼関係……何もかも失ってしまったように感じているかもしれませんが、それは違います。『何もない自分』なんかではありませんよ。
「過ぎ去った人」と「過ぎ去ったとき」は、今後の人生で何を大切にして生きるべきかを教えてくれたのです。現にあなたは『自分を大切にしたい、愛したい、過去のすべてを受け入れて未来に向かって強く生きたい』と言っているではありませんか。命の重さも十分理解したではありませんか。
もだえ苦しんだ体験と引き換えに胸に刻んだその想いを、どうか無にしないでください。とは言っても、急に自信や誇りがわいてくるわけではないから『みじめで人に会いたくない』という気持ちになるのもわかります。まずはふたつの心のせめぎ合いをやめるようにしましょう。
28年前、お母さんは命がけで子どもを出産しました。そのおかげであなたという人が生まれました。お母さんは、20年かけて育てた子どもが危機に瀕していることを知ると、持ちうるすべての愛情を注いで我が子をよみがえらせました。
つまり、あなたは二度、お母さんの愛から生まれているのです。一度目は赤ちゃんだったから、生きる意味も自分の価値もわからなかった。でも二度目は違います。母親は自らの命に換えて「生き伸びる意味と価値」を教えたからです。「どんなに生きたいと思っても命が尽きるときは必ずくるのだから、自分を大切にね。強く生きていけばきっと未来は開けるからがんばって!」というエールをあなたの胸に残して。
生まれ直すということは「まっさらになれ!」ということです。まっさらとは、人生も白紙。心も白紙。何もないのが当たり前なんです。そんなときに以前の自分と比べたり、過去の遺物を惜しんだり、未練を追いかけたりしてはいけません。しっかり、裸一貫で出直す覚悟をしてください。
すると心が自由になります。自由とは、これ以上失うものはないと開き直ってイキイキすること。そして、今感じている恐怖が、まだ起きてもいないことを想像して縮こまっているだけの余計な心配、とわかってのびのびすることです。
あなたはお母さんの力によって生まれ直すことができました。お母さんがあなたを応援してくれたように自分を精一杯励まして、一歩を踏み出しましょう。まだおぼつかない足取りでもかまいません。全力を出し切ることが大事です。足を出す前から悲観的になってようすばかりうかがっていても、何も変わりませんよ。
白紙の人生に何を描くかは、白紙の心に何を描くかと同じです。自分の未来は、自分が何を胸に抱いて生きるかによって決まるのです。あなたの人生はこれからの方がずっと長いのだから、わかったような気になって物事を決め付けたりせず、今の自分にできることを考えましょう。
さあ、顔をあげて。自分にやさしくできたなら、人にもやさしくできます。何も恐れずに進んでいくなら、恐ろしい目にも遭いません。これから出会う人たちと築く愛をベースにした世界をきっちり心に描いて、新たな人生を行く覚悟をしてください。