第三話「コミュニケーション脳」   第四話「音の心が意味」  


 

第三話

 

コミュニケーション脳

 

 コミュニケーションで一番多く使われる脳の部位は前頭前野(額の後方にある)だと言

われています。脳科学者で、東北大学教授の川島隆太博士は光トポグラフィーという器具

を使い、人が何をしている時に脳のどの部分が活動しているかを詳しく調べて発表してい

ます。

 言葉を使って考える、話す、文章を書く、本を読むという行為には脳全体に散らばって

いる非常に多くの部分が関わっています。どの部分が何をしているかが機械で計測できる

ようになって急速に脳科学が発達しました。脳のどこかの機能が後退してくると認知障害

という症状を呈してきます。言葉のやりとりができない(失語)、適切な認識ができない(失

認)、道具を使うことができない(失行)、手順をふむ作業が困難(実行機能障害)などで

す。川島博士は認知障害の予防と症状改善の両方に効果のある治療法として前頭前野を鍛

える為の各種のドリルを開発し、実際に高い効果を上げています。ドリルに使われている

のは言語を操る能力です。

 人が自立して生活する行為には全て言語機能が関わっています。例を挙げましょう。

脳梗塞で認知障害になった女性が廊下に立って震えていました。どうしたのか聞くと、

懸命に言葉を捜している様子で、やっと一言「おしっこ」と言いました。「トイレに行きま

しょう」というと、目がうつろになって、「それ何?」と言います。手を引いて連れて行く

と便器を見て何をするものか認識できたようで、ちゃんと用を足しました。この人の場合

は「トイレ」という単語の記憶が失われた為にそこへ行くことが出来なくなったのです。

朝目が覚めて、「さあ起きよう」と思うから、脳は運動野に命令を下し、体を起こします。

「顔を洗おう」と思うと、洗面所のイメージとそこへいく道順が頭に浮かび、迷わずそこ

へ行けます。イメージを支えているのはそれを覚えるのに使われている名称です。洗面所

という名称にイメージが付いて記憶庫にファイルされ保存されているのです。トイレある

いはお手洗いという名称を忘れるとそこへ行けなくなるわけです。

毎日の生活で声に出して言おうと言うまいと言葉を使わずに独力で生きていくことはで

きません。その言葉は実は一つ一つの音の組み合わせで出来ています。単なる音の組み合

わせが単語として意味を持ち、それらが連なってさらに複雑な意味を持つ統語というもの

を駆使できる能力を持っているのは人間だけです。そして互いにその言葉の意味を理解で

きる人同士が意思を伝え合う為に行っている行為がコミュニケーションです。

エネルギーの振動である音というものの意味を解するという摩訶不思議にして複雑極ま

りない能力を自然から頂いて、コミュニケーションという奇跡のようなことを毎日してい

るのが人間です。そこに創造主の深い意図があるように思い、その意図を探る為の探求を

始めたのが小田野早秧です。

これからその探求を一緒にしてまいりましょう。