この10年間、家族3人の抱えてきた心の傷はどんなであったかと思うと、胸が痛みます。ともに暮らす家族同志が、安らかに過ごしたいと願うのは自然な感情です。それが屈折したまま満たされないと、人は意固地になるか無視するという態度に出てしまいます。
奥さんが吐いた冷たい言葉は、実は10年前も今も同じあなたへのSOSだったのです。表層意識は、『あなたが常日頃から私を軽んじるからお返しよ』であっても、深層では『どうして私の気持ちをわかってくれないの。もっとやさしくしてほしい』と泣きながら訴えていたんですよ。
あなたは、仕事もこなし責任感もある方のようですが、男尊女卑の感覚がかなり強いように見受けられます。それは、結婚を決めた段階で、相手を「認める」よりも「都合がいい」とか、支配下に置けることを優先させたあなたがいたことからもうかがえます。
また、「再婚したら、また同じ結果になる」と想像すること自体、あなたは女性に対して「誰だって大して変わらなくて、同じような関係しか築けない」と決めつけているし、そういう自分の考え方は間違ってないと思っているのでしょう。
それだと女性は、あなたと同等のひとりの人間として認めてもらえなくて応援もされないわけですから、傷ついて居直るしかなくなります。そして、女性が経済的に依存している場合は、せめて夫を「財布」としてしか見てないという態度を示すことで、崩れそうになる自尊心を懸命に保とうとするのです。
きっと、奥さんの心の中は、別れたくても子供を抱え自立してやっていく自信がないとか、世間体を考えて打算的になる自分が情けないとか、いろいろな感情が渦巻いていることでしょう。もしかしたら、あなたにやさしくされたいという未練を、まだ引きずっているかもしれません。
一方、小学校に入るころから不仲だった両親の顔色をうかがいながら育った高校生の息子さんにとっても、団らんのない家庭環境や、また母親の傷心をかたわらで感じ続けたことは、どれほど大きなトラウマを作ったか計り知れません。
もちろん、あなたに男尊女卑の感があるなら、それもあなたが傷ついて育った結果です。母親との関係や初恋の人などの影響が考えられますが、これ以上は仮説になってしまうのでやめておきます。私があなたに伝えたいのは、心は物のようには扱えないということと、その心が求める幸福は、計算して得られるものではないということです。
自分の深層にある思いを無視してドライに生きると、心も物のように割り切って考えがちです。そこに幸せや安らぎやぬくもりはありません。表面的な刺激と快楽と打算だけが通過していく人生になってしまいます。それこそ、生きがいは仕事の評価だけということにもなりかねません。
はたして、あなたはそのために生まれてきたのでしょうか? あなたが、万一働けなくなるようなアクシデントに見舞われたら、いったい心に何が残されるでしょうか?
人生における転職や離婚は、もちろんあなたの自由です。また、あなたは自分の意志を貫く人だと思います。でもその前に、一度自分のこれまでの態度を、ここに書いたような観点から振り返って素っ裸の自分の心と向き合ってみてください。
息子さんとは、今後も会う機会はあるでしょうし、あなたにとっては男同士なので人生を応援しあう関係も築きやすいかもしれません。しかし、問題は話し合いもしないで過ごした奥さんです。ふたりは意地っ張りなところも似た者同士です。これまで傷ついた心をお互いが手当てして、それから別れても遅くはないと思います。