Vol.7

「どうしてコンプレックスはあるの?」


 


 元アナウンサーの私が、実は小学生時代に「赤面症」でずっと悩んでいたと言うと、たいていの人は驚きます。ですから、「人前で発表することがいや」「赤面症が怖くて手足が震える」「顔が赤くなると消えていなくなりたくなる」という人たちの気持ちは人一倍よくわかります。

 私の場合は、友達の何気ない一言が「赤面症」を克服するきっかけとなったのです。それは、中学1年になってまもなく、あるテーマをクラスメートの前で発表する日でした。 

 発表の最中“間違えたらダメ!うまくやり遂げなくちゃ…”というプレッシャーで、私は耳まで真っ赤になっていくのがわかりました。内容よりもそのことが気になっていた私は、勇気を出して友達に聞いてみました。

「私ってみっともないでしょ。いつも顔が赤くなっちゃって…」

「ううん、そんなことないよ。かわいいと思った」

「えっ?!」驚いたのは私でした。その友人の答えは全く予想もしていなかったものだったのです。

 当時の私は、「赤面症」をみっともない・恥だと憎み嫌って、コンプレックスのかたまりになっていました。だから、顔が赤くなることがかわいいなんて、とうてい考えられなかったのです。

 まるで天と地がひっくり返ったような気分で、思わずニヤニヤしてしまいました。心がほどけていくようなコンプレックスからの解放感でした。しかも、かわいいなんて…。

 私は、すがるような気持ちでその言葉を信じようと決めました。それから、“赤くなってもいい。恥ずかしいことじゃないんだ”と思えるようになった私は、大きく変わることができたのです。

“赤くなったら困る”というシグナルが出なくなると、私は赤面しなくなっていったのでした。その分話しの中味に集中することができるようになって、人前で話すことに自信を取り戻していきました。すると、それまでの反動のように、人前で話して感動を伝えることが嬉しくて快感になったのです。

 それから数年後、結局私はアナウンサーという職業についたわけですから、実に意外な展開ですよね。

 さて、現在「赤面症」で悩んでいる人が生まれながらにそうだったかというと、当然そんなことはありません。自我が形成されていく精神的に無防備な子供時代に、人からおどされたりバカにされた経験があって、「うまくやれなかったらどうしよう…」とか、「また恥をかくのでは…」という恐怖が残ってしまったのです。

 そのような経験は少なからず誰にでもあるものですが、コンプレックスとして抱えてしまう人は、傷つけられたショックがあまりに大きかったために、自信を喪失したまま、何とかしようとしないで蓋をしてしまった状態なんですね。

 解決方法としては、あえて蓋をはずして逆の発想を試みる。赤面症を例にとれば、“うまくできないといけない”“赤くなるのはみっともない”という2つの思い込みを、“私らしくできればOK”“赤くなるのは純情な証拠”と考えてみることです。

 発想の転換は、そのままやさしい自分作りにつながります。呪文のように毎日声に出して自分に言い聞かせてみましょう。少しずつ気持ちが楽になって、自分にかけるやさしい言葉が、気が付いたら人にもいえるようになっていきます。

 コンプレックスは、あなたをつぶすためではなくて大きくするために、そして、傷ついた分だけ傷ついた人にやさしくなれるようにあるのだと私は思っています。

 それでもダメだったら、コンプレックスを手放さないでいる自分を、どうか丸ごと愛してあげてください。それもいいじゃないですか。あなたがやさしくなれることに変わりはないのですから…。

 



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