「H」ではありません。「H関係」についてです。

 理想の人間関係といえば、これまでは人間関係の頭文字『人』に象徴されてきましたが、これはもう古い!21世紀は、ヒューマンリレーションの頭文字を取って『H』が理想の人間関係の象徴となるでしょう。

 『人』は、どちらか一方の支えがなくなれば共倒れになる依存の関係です。これでは、人は真の幸福や安らぎを手にできないことが社会変化からも明らかになりました。

 一昔前、男女の関係は『人』でした。会社経営者と従業員の関係もそうでした。支え合うとか信頼し合うといえば聞こえはいいのですが、実態は、服従と引き換えに生活の安定を保証してもらう関係。逆の立場から言えば、恩を着せて思いどうりに動かす関係でした。

 その利害がうまく成り立っているうちはいいのですが、服従が忍耐となり、安定が不安定になれば、もはや暗黙の約束事は成立しません。それどころか一つ間違って共倒れでもしようものなら恨みつらみを作り出してしまいます。

 ここで、若い女性のカウンセリング例を紹介しましょう。

 「今まですべて彼任せで、何でも彼に決めてもらっていました。彼にとって私は素直でかわいい女だと思います。でも、最近そんな関係がイヤになったのです。というのも、彼に任せたばかりに失敗や行き違いが多くなって…ケンカは増えるし楽しくありません」

 「素直でかわいい女といいながら、あなたは自分で物事を決めることに本当は自信がなくて、失敗から逃れたいと思っているということはありませんか?」

 「だって、私は黙って従っているんだから、失敗されたら怒るのは当たり前でしょ。好きにする以上は責任取ってくれなくちゃ」

 このような場合、頼られている彼が彼女を重荷に感じるようになると、必ずこの男女関係は破綻します。依存の関係には、実は大きな落とし穴があるからです。

 相手に頼られたいという深層心理には、「自分なしでは生きていけない」と思わせたいというエゴが潜んでいます。また、頼る側には「任せているからには責任を取れ」というエゴがあります。こうして、頼り合う裏で自由を奪い相手を自分の範ちゅうに閉じ込めておこうとするのが"依存"=『人』の関係なのです。

 一方『H』の関係は、「I」という私がそれぞれの足で立ち、精神的に"自律"しています。その上で共に手を差し伸べている対等の関係で、『H』は、お互いが自立した関係であることも示しています。

 男女間や経営者と従業員の間に『H』の関係ができれば、世の中は全く変わるでしょう。それには、まず精神的自律が不可欠なのです。

 じゃ、結婚して育児を含め専業主婦に徹する女性は自立していないからダメなのかというと、そうではありません。重要なのは精神的に自律しているかどうかです。自律している人はいつでも自立できるので、形や時は問題になりません。このことは、就職者の転職や独立に際しても同じことが言えます。

 相手のために何が提供できるかという心で関わっていくとき、依存とは正反対の自律の意識が生まれます。それは、自分の価値を自分が認めているということでもありますし、自らの人生に起きることに責任転嫁はしないという精神でもあります。

 別の表現をすれば、人間の尊厳を知っていて自他共に愛を注げる心の持ち主ということになるでしょう。

 それぞれの違いを認め合い、尊重し合う心を養って"与え合う関係"を築き上げることが、人間関係の構図を『人』から『H』へと変える基本です。

 とにかく、期待しないで人に与えられる、自分は与えられなくてもひょうひょうと与えて生きていける、という姿勢で人間関係に臨んでください。『H』の関係を少しずつ広げて、いつか大きな輪につなげていきませんか?

 



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