はじめに | 第一章 舟を岸につなぎなさい | 第二章 潜在意識が容認しているもの |
       第三章 岸につなぐ綱 | 第四章 岸につなぐには


第一章       舟を岸につなぎなさい

 

 数十億の蟻が笹舟に乗って、近づく滝壷も知らずに流れて行く光景を想像してみて下さい。蟻たち

は自分たちが笹舟に乗っていることさえ知らないようです。知らないから、協力し合うべきお互いが、

憎み合い、おとし入れ合い、欲張り合って、策略と闘争に夢中です。

 舟が滝に達して転落すれば、敵も味方も全滅なのに。

 これが人類の現代の様子を端的に絵にしたものです。

 今、あなた方は戦争を恐れたり、核兵器の使用を憂慮したりしています。実際これらは恐ろしい問

題です。しかしこれよりもっと恐ろしい問題を我々が持っていることにお気づきですか?

 この問題に気づいたら「戦争問題などで大騒ぎしていられるような悠長な時代はもうとっくに人類

の上から過ぎ去っている」ことに、あなた方は驚き、目ざめるでしょう。

 それ程恐ろしく、それ程重大な問題に全人類は今、直面しています。

 この問題を見落としている限り、仮に今、戦争をやめ、核の問題が解決したとしても、人類の運命

は好転したことにはなりません。

 なぜなら、それらの問題は「蟻たちの間だけの、つまり船の上だけの問題であって、蟻たち全部を

乗せている笹舟そのものは船の上が戦争であれ、平和であれ、おかまいなしに滝壺に向かって流れ続

けているという大問題」とは無関係だからです。

 実際にはあり得ないことだけれど、もし世界中から戦争がなくなったとしても、人類全体としては

日々確実に滅亡に向かっているのです。今日の医学の進歩で個人の寿命は延びたと思っている人がい

ます。しかし、個人の寿命と、全人類を一括にした寿命は別個のものであります。

 ともあれ、全人類の転落という大問題に気づいて、この対策に着手しないかぎり、世界が何を協定

し、何を実行しようと「転落の運命はそのままたゆみなく進んでいる」というわけであります。

 大切なことは、舟を岸につなぎ止め、蟻たちが上陸できるようにして、悲劇的運命からまず絶縁す

ることです。

 ここでいうところの

   笹舟とは何か
   流れとは何か
   滝とは何か
   岸とは何か 

 お聞きなさい、これこそ人生の出発において、しっかりと心魂に銘記しておくべき肝要の問題でした。

 さてお聞きなさい。

 山河草木 禽獣蟲魚(きんじゅうちゅうぎょ:鳥、動物、虫、魚のこと)大地大海空気大空 日月

星辰(にちげつせいしん:太陽、月、星のこと)など、当然人間も含んで一切万物は、もともと総合

的なひとつながりの大生命体です。これは三千年も前からわかっていました。それなのに一般には今

日まで、このことを明確に意識することなく来ました。

 総合的ひとつながりのものであるから、一切万物は、どんなものであれもれなく他から他へと密接

な相関関係があって、どれが尊く、どれが卑しく、どれが必要、どれが不必要であるというものでは

ありません。それなのに人類は、いつの間にか「人類は独り尊く万物から超脱しているか、あるいは

万物と対立しているか」のごとく錯覚しています。それで「自然を征服する」など突拍子もないこと

を平気で言ったりしています。

 この錯覚こそ、人類の罪悪のそもそもの根源です。つまり、むさぼり、怒り、愚痴を生む母体の根

本無明(こんぽんむみょう:真理に対する無知)であります。

 この錯覚の上にでーんと乗っているのが、国を問わず、人種を問わず、人類全体であります。

 その錯覚の笹舟に乗って行動してきた人類は、何をしていても一切錯覚の連続帯であって、その連

続帯が何千年をかけて巨大な流れとなって、今日では逆に人類をその流れの上に翻弄するようになり

ました。

 滝というのは、

 錯覚の連続帯であるところの「流れ」は当然のことながら行きづまりの断層に至ることを言ったの

です。

 岸、

 一連の生命体であるところの万物の間には、自然な相関関係と、その関係を調整するための自然の

大秩序があるわけです。永遠不変の大秩序が。

 この永遠不変の大秩序のことを岸と言ったのです。この大秩序を的確に識別して、これに従って生

活をすることをもって、舟を岸につなぐというのです。

 この永遠不変の大秩序から逸脱することなく人生を運営していくという最も大きくて、最も重要な

第一義を、少数の例外は別として、世界中の政治は今日まで取り上げて来なかったのです。

 この第一義に基づいて人生の進行方向を大回転しない限り、今後も引き続き、どんな努力が払われ

ても、いたずらに転落の滝壺に急ぐばかりです。

 ともあれ、一切の問題は、笹舟を岸につなぐという一事に傾注されるべきであります。