親より大切なもの

 ある時太母さんが集まっていた何人かの人に、「みんな謎々しよう。親より大切なものってあると思う?」と聞きました。
「自分」と返事した人はいませんでした。いくらそう思っていても言いにくいもんね。
「恋人」と返事した人はいませんでした。いくらそう思っていても言いにくいもんね。
「お金」と返事した人もいませんでした。いくらそう思っていても言いにくいもんね。
「仕事」と返事した人もいませんでした。実際には親より仕事を優先してるのにね。

 さて、誰も返事をしないので、太母さんは満足そうに(多分そうだろうと思っていたのでしょう)、
「実はわしにはあるね。ところであんた子供はいる?」聞かれた人は『いる』と答えました。「じゃ、子供より大切なものがあんたにはある?」とその人に尋ねました。
「ありません。子供が一番大切です」
「ああそう。わしにも娘がおるけど、その娘より大切なものがわしにはある。一体何だと思う?」
 やはり誰も返事をしません。
「あのね。あんた両親が今おる?」
「いません。もう亡くなりましたので」
「そう。で、あんた今死んどる。生きとる?」
「え。あの、生きておりますが...?」
「ふ〜ん。じゃ親は無くとも生きとられるわけだ。ではここに子供持っとらん人おる?」
何人もが手を上げました。
「その人らもどうやら生きとられるようじゃな、見たところ」

「親が無くとも、子が無くとも生きとられるのはこれで分かった。じゃあんた水が無くとも生きとられる?」聞かれた人は『いいえ』と首を振りました。「じゃ空気はどう。土は?」これにもやはり皆首を振りました。

 太母さんの教えは簡単明瞭。何も難しい勉強しなくても、大事業しなくても、親孝行しなくても構わない 1 。たった一つ、毎日の生活で極力、空気と水と土を汚さないでいればいい。

ある時こういう言い方をして私をぎょっとさせたことがあります。

「わしは洗剤つかわんよ。飲めんもんね。シャンプーたら言うもん使わんよ、やっぱり飲めんもん。化粧たらせんよ。食べられんもん顔に付けたら顔が嫌がるもん。わしが飲めもせん、食べれもせんもんをどうして地球さまに飲ませたり食べさせたりできる?」

2003/06/18



1 親孝行しなくても云々について一言。晩年すっごくしてもらいたがりました。