コトバの魔力

 先月のこと。ある人に電話で静流のホームページの原稿はいつ更新されるのかと聞かれた。掲載時期が不定期なのはひとえに私がズボラなせいだ。なんのかんのと言い訳していたら、それにはとりあわずに、「楽しみにしています」と言われた。

 その時の胸のトキメキ!何と嬉しいオコトバ。電話を切って仕事机に向かって走って行って、次の1時間でエッセイを二つも書き上げてしまった。腹の底からやる気が湧き上がって来たせいである。

 私は実に単純な人間で、皆が皆そうではないのかもしれないが、それでも褒められたり認められたりしたらかなり気分が浮き立つのではないかな。だれかのたった一言、「楽しみにしている」というだけでそれほど元気が出るのだ。コトバにはそれほどの力があるのを知っていますか。勿論知っているはずです。自分の過去の体験を振り返って見てください。自分もそうなら、子供だって犬だって亭主だって(順不同)褒められたら嬉しいと思う。

 上手に褒めたり、ねぎらったりしている人が周囲にいたら観察してみてください。どういうのが真摯で、どういうのがわざとらしいのかを見極めないと。真摯な励ましやねぎらいをする人は相手をよく観察している人だということに気づくと思う。よく知らないのにやたら褒めるのはわざとらしいからね。

 それはともかく、コトバというものの魔力の話に戻ろう。一言で気分が晴れやかになるという力は逆にも働くのだ。けなしたり罵ったりしたら風船球に針を刺したようにいっぺんで元気が抜けてしまうことにもなる。

 以前心理学のクラスでした実験。一人が利き腕を水平に持ち上げて立ち、その背後のもう一人が手首に手を当てて腕を押し下げようとするのに対し出来るだけ抵抗してもらう。なかなか腕が降りないが、結局渾身の力で押し下げた人の勝ち。その次に前の人に「私には出来ない」あるいは「私には力がない」と言ってもらいつつ同じ動作をする。今度は簡単に腕が下がってしまう。あんまりあっけないので驚くほどだった。今度は「私は強い」とか「私には出来る」と言ってもらいつつ行うと腕には目に見えるほどの力が入っているのが分かり、押し下げようとしていた人の負けとなった。ほかの生徒も二人組になって何度も実験したが、結果は大体同じだった。コトバは口にしても、黙って思っていても同じ結果だった。つまり自分の能力を否定するか肯定するコトバを口にするあるいは思うだけでまるで体の力が変わってしまうのだ。

 コトバの力は両刃の剣なのだということをよくよく肝に銘じてくださいね。あなたがうかつに何か言ったそのコトバが誰かの胸に突き刺さって、永の年月恨みが残っていっているかもしれないから。

 自分のコトバに責任を持って生きるという姿勢を常に心がけていれば、そんなに人を傷つけることも無くなって来ると思う。世界の平和は一国の平和から、一国の平和は一人の平和から、ナンチャッテ。大風呂敷を広げましたがホントなんだから。
おしまい。

2003/05/04